梶井基次郎の小説をまとめて読んだ。
今は青空文庫で手軽に読むことができる。
殆どの作品は、社会と関わりを持たない男の独白という内容で、私小説である。
「檸檬」はもちろん秀逸だが、「闇の絵巻」も優れた作品だ。
療養先の旅館と旅館の間の暗い道を歩いていくというだけの話だが、なんという豊かな闇であろうか。
「この闇のなかでは何も考えない。」とはいうものの、実は、いろいろな感覚を動因して全身で闇を感じているのである。
山の黒々とした闇、沢の轟々とした水音、そして道の半ばに一つしかない電灯が、闇を強烈に印象づける。
ある夜のこと、私は私の前を私と同じように提灯(ちょうちん)なしで歩いてゆく一人の男があるのに気がついた。それは突然その家の前の明るみのなかへ姿を現わしたのだった。男は明るみを背にしてだんだん闇のなかへはいって行ってしまった。私はそれを一種異様な感動を持って眺めていた。それは、あらわに言ってみれば、「自分もしばらくすればあの男のように闇のなかへ消えてゆくのだ。誰かがここに立って見ていればやはりあんなふうに消えてゆくのであろう」という感動なのであったが、消えてゆく男の姿はそんなにも感情的であった。
梶井基次郎は、闇という単なる現象に、多様な本質的な意味を与えることができる。
もちろんその才能は、我々にもあるはずだ。
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