2010年9月17日金曜日

「たましい」は存在するか?

僕は、理化学研究所の脳科学研究センターというところに企業派遣のテクニカルスタッフとして勤めている。つまり、脳科学の最先端の現場にいるという幸運な環境にいるわけです。

先日、脳科学研究センターの内部発表会があって、各研究室が最新の成果を発表しました。
最近の進歩は目覚しく、意識や認知の研究も、かなり精緻になっていて驚かされます。

私には、ある疑念が浮かびました。人間の心はすべて解明される日が近いのではないか?
2日間あるうちの1日目の夜のレセプションで僕は同僚と「たましい」はあるか?という話題について話し始めました。

同僚は、「たましい」は存在すると、断固として主張します。
いくら脳科学が進んでも、人間の心は最後まで科学ではわからない、と言う。
科学は、立体物を床に投影した影のようなものを見てそれを研究しているのであって、いくら影を観察しても実体はわからない、のだそうである。
パーティーの席であったので話しは途中で切れてしまった。その場で論をつくさなかったのにWebで一方的に言うのは反則かもしれないが、今回はこの話題について考えてみよう。

たぶん、今、日本人の誰にきいても7割くらいの人は「たましい」は在る、と答えるでしょう。しかしその根拠を聞くならば、理由らしい理由は返ってこないように思います。
同僚の彼も、これといって根拠はないようだ。しかしどうしても「たましい」は無いと困るらしく、「たましい」があることを前提に生きているようである。そうでないと彼の考える世界観が崩れてしまうらしい。

私は、「たましい」は無いと考える。
私は受動意識仮説を支持するし、また「たましい」よりも前に肉体があると思っている。
私が自分の喜びや悲しみ、痛みや快感などの感情や感覚を観察してつくづく思うのは、感情や感覚は身体の現象だということだ。たぶん身体がなければ、喜ぶことも悲しむこともできないだろう。

自然-身体-精神-社会を貫く軸を探っている私にとっては「たましい」というわけのわからないものは邪魔である。
むしろ人間の精神は肉体そのものであり、肉体は自然そのものであると割り切り、自分自身が透明なメディアになったほうがスッキリする。「たましい」という背後世界への接続を仮定するよりはずっといい。私は人間に謎を残していたくない。

とはいうものの、リアルな喜びや悲しみは、そのものとして絶対的に私たちに与えられているのであって、私は決してそれを幻想だとシニカルにいうつもりは無い。私は人間の尊厳を陥れるようなことはしない。むしろ我々が見て、聞いて、考え、また言語や表情やモノを交換する活動、愛したり憎んだりする活動は、特別な価値であってそれはそれ自体に意味がある。そうでなければ芸術などやっていない。芸術の直接の動機は感動だ。感情的な質の強度だ。そしてそのことを行動の原理として行っている。

いや、仮に「たましい」が存在するとしても、その「たましい」なるものも、それを存在させる世界も、自然そのものなのだから、科学で解明できるかどうかは別としてそれも素直に受け入れるべきものである。そして、その「たましい」なるものはどんなものなのか、私は真に納得したいと思う。

たぶん、人間は自分の世界観の物差しにあわせて世界を解釈しているし、私もその例外ではない。
結局私は、そのように考えたいと思っているからに過ぎず、他の人と同じである。
「たましい」があるか無いかということは、その問い以前に、どんな世界観を前提として生きているのか、そして、それは何故そうなったのか、そのことを問わなければならないだろう。


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4 件のコメント:

  1. たましいの存在ですか、難しいとは言ってはいけませんね。私も無いに同感です。電子の動きなのですから。しかもWhat is Life?で書きましたように(http://sammyclickpresswhatislife.blogspot.com/2010/09/what-is-life_17.html)、ヒトだけにあるとしたら間違いです。

    しかし、その一方で、靖国神社のように、なぜか、心に影響する場所や建物があることは事実です。

    脳ということは、和光研究所ですね。後輩が行っていますし、かつての同僚がそこの出身です。

    そうそう、しかし、一方で、たましいは無くとも、ヒトには記憶があります。その生きている人間の記憶の中に、なくなった人の思い出があることは間違いないでしょう。よって、それを魂が作り出しているものだと、理解すると、より、天国なるものを、あるいは宗教という、死を考える学問が発展するのでしょう。(http://sammyclickpresswhatislife.blogspot.com/2010/08/what-is-life_19.html)ここで扱っている本をご覧ください。Amazonでは1円で売ってます。Biologistが宗教について何かを知ることの出来る貴重なものです。とはいっても宗教を信じるようにはなりませんので、ご安心ください。

    いつも面白い記事をかかれていらっしゃるのに、コメントせず、すみません。頑張ってください。期待しています。

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  2. 本がほしくてメールもしたのですが、ご確認くださいませんか?よろしく御願いいたします。無私でしょうか?

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  3. Sammyさん
    相変わらずレスが遅くて本当に申し訳ありません。「〈野性〉論」は本日送付しました。
    また、ご紹介いただいた「がん宣告マニュアル 感動の結論」は、是非読んでみます。
    なお、「たましい」については数日間考察していて、次回も書きます。

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  4. 本の到着を待ちわびております。とても楽しみです。このブログは他に類を見ないもっとも興味深いものの1つです。いつも楽しみにしていますので、頑張ってください。

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