2009年11月8日日曜日

村野四郎の身体詩

    霊魂の朝

    村野四郎


---「霊魂を食べて ふとるのよ」
というこえが どこかでしたので
急に胸がわるくなって目がさめた

厨房の扉があいていた
母親が瘠せた息子に もういちど
---「ベーコンを食べて ふとるのよ」
と言っているところであった

まこと肉と霊のだんだら模様の春だ
ユスラウメが咲いている

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色んな詩を読んだが、村野四郎ほど身体感覚が鋭敏な詩を書く人は見たことがない。
この詩・「霊魂の春」はダジャレの切り口によって、身体と精神のなまなましい関係を良く表している。

私たちの感覚は、視・聴・臭・味・触の5感が主であり、それらは全て体の表面の出来事だ。それも頭部に集中している。

しかし私たちの体の中では、血液の流れ、自律神経の調整、内蔵の蠕動運動、新陳代謝など、常に無数の現象が起こっている。ダイナミックな宇宙だ。

しかしその膨大な現象は、殆ど私たちの意識には上らない。
そしてそれを言語化することはなお難しい。

村野四郎はそれができる稀有な才能だ。

「体操詩集」という身体感覚の集積のような詩集も出している。

膨大な身体内の現象に比べれば
5感で感知できる世界は何と貧弱なことであろうか?
肉体の現象の海は、意識で作り上げる貧弱な知恵よりも遥かに優れて圧倒的な知恵の海なのだ。


*「霊魂の春」が冒頭に掲載されているのは 村野四郎詩集 (青春の詩集 日本篇 17) 白凰社

*ちなみに村野四郎は、童謡「ぶんぶんぶん」の作詞も手がけている人である。意外な一面もある。

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